悲しい気持ちになってしまって何もすることができない。今まで月に何度かこういう日が繰り返しやって来るからなんとかして乗り越えていたはずだけど、今回のは厳しい。
久しぶりに旧友と会った。
今日はとても晴れていて冬なんてのは空想上のものだと思えるほど遠くにあるような気がした。完全に春だった。
色んな話をしてお互いに別れて家に着いたと同時に悲しい気持ちに襲われた。
春は季節の始まりだから疎遠になった友人達のことを思い出してしまう。
故郷を離れてからそこで僕だけ時間が止まっているような気がする。上手く前に進むことができない。
悲しい気持ちとはまた違うのかもしれない。待ち合わせ場所に時刻になっても誰も来ないような不安さ。時間の流れが僕の心臓をキリキリと締め付ける。知らない街で迷子になってしまったようでもある。世界で一人ぼっちになってしまったのかもしれない。
こういう莫大な空白の時間を埋めるために映画や本に耽溺しているけれど今日みたいな日はそういう行為に耽ってみても虚しく感じるだけで何も味がしない。五感が全て失われたのに意識だけあるみたいだ。吐き出す場所さえない。
思い出になってしまった人たちは僕にとってはもう遠くの惑星で暮らしているのとなんら変わりはなくて。
季節が変わるごとに流動的に人間関係を清算していくしか処世術を知らない無知な僕はこれから先もこうやって生きていくしかないらしい。
今日に至ってはお腹も空かないし眠くもならない。久しぶりに吸った煙草は味がしなくて一口で捨てた。酒を飲んだらきっともっと死にたくなるだろう。
不時着した宇宙船から救助信号を待つような夜は続く。
次第に訪れる眠気に身を任せよう。明日の朝の光に包まれて今日の憂鬱なんて全て忘れて新しい気持ちで始められるように。

祈りながら僕は目を閉じる。