価値のない詩

 

 

「無題」

事故みたいに綺麗な太陽だった。夏が俺のまわりをまとわりついて鬱陶しかった。俺はそれを拭って足元の水溜りの中に捨てた。すべてが微妙なバランスの調律の上で成り立っていた。俺は狂っていたんだと思う。ピンク色のカーテンがすべてのインターネットを包み込む前に濃縮された真実を見つけ出さないと 

 

 

 

「終わりの始まり」

終わりの始まり

夏のような冬

眩しいほど明るい夜

感触のある夢

相対的な絶対価値

才能のない人間の生き様

電脳世界の思い出

やさしい安楽死

原因のない結果

目で見る音 聞こえる色

奇跡のような現実

ああ

また何かが始まる音が聞こえた

 

 

 

「不在」

つぎはぎの毎日。光と重力という地球に君臨する力に抵抗できず、俺は地を這いながら毎日を埋める。塗りつぶしても塗りつぶしても奴らは次々とやってきて俺にねだる。ゴールは見えず、今走っているレーンが伸び続けるイメージが思考を通り過ぎる。どこからともなく沸いてくる笑い声の相手もしなくちゃならない。愛を持って考察しながら、時間と空間の奴隷としてのみ存在する俺は脱落することを許されない。いつから神は不在になったのだ

 

 

 

「季節」

脳に夏が溜まってきた。俺は手元にあったスパナで頭蓋を割ってそいつを出してやると炭酸の泡のようにはじけて消えてった。苦痛だが、またこうして来年も夏を処理しなくちゃならない。世界はたった一つの季節に支配されている

 

 

 

「夜」

信号の色を無視して走った。才能が無かった俺は宛もなく夜の街を走るしかなかった。グランドピアノが頭蓋骨を砕く夢を見た。俺がこの世からいなくなっても世界が廻り続けることが憎かった。車を停めてうずくまるとなぜだか心地よく眠れた。重力と絡み合う思考の回路はアスファルトに落ち音もなく砕けた

 

 

 

「走」

駅を何度も通り越して走った。息が切れてもなお走り続けた。肺に流れ込む酸素は二酸化炭素となり空気に混ざり、大気を汚していく。ソールの減ったスニーカーはもう捨てた。目の奥で火花が散り、けたたましい音で鳴り響く遊園地の逆走するメリーゴーランドのように脳が揺れる。静脈に流し込んだ大量のコカインは全身の毛細血管を辿って隅々まで行き渡り俺の精神を覚醒させる。頭の中で足を止めるなと誰かが囁き続ける。俺は目にも留まらぬ速さで早朝の滑走路を駆け抜け、この世界で二番目に小さい星になった

 

 

「傘」

ローソンに行った ビニール傘を盗まれた 手元にある誰かの傘を差して帰ろうかと逡巡したがここで悪意の連鎖を止めなければと思い雨に濡れて帰った 街から悪意が薄まり犯罪は減り平和が訪れ緑が息吹き始めた 鳥たちは囀り人は空を見る時間が増え星は森に落ち俺は電気を消し眠りビニール傘を買う夢を見た